昭和の男
本書は、半藤一利と阿川佐和子にとっての「昭和の男」を4名ずつ、計8名紹介している。半藤一利は、鈴木貫太郎(元首相:敗戦をまとめ上げる)、今村仁(元陸軍大将:陸軍の意向に反しインドネシアを開放)、松本清張(作家)、半藤末松(父)。
阿川佐和子は、ウィリアム・メレル・ヴォ―リズ(建築家)、植木等(歌手・俳優)、小倉昌男(元ヤマト運輸会長)、阿川弘之(父)を挙げています。
一般的に対談本は論点が定まらず話が展開していくため、読んでいて何を言いたいのか分からなくなる場合が多い。両者の掛け合いにより話が展開するため、まとまりがないのは仕方がないのかもしれません。
しかし、この本は「昭和の男」というテーマで、人物名を挙げて対談しているため、目的が明確です。対談でありがちの話の展開はかえってその人物の全体像を浮かび上がらせるため、興味をそそります。
鈴木貫太郎(元首相)
鈴木貫太郎は名前だけは知っていました。敗戦を受け入れた首相であることも分かっていましたが、当時の状況がどんなに困難であったのかまでは理解ができず、半藤一利の話で人物像が浮かび上がってきました。
鈴木貫太郎は、賊軍(関宿藩)の家に生まれ、海軍に入隊しても不遇であったこと。二・二六事件では4発撃たれ、死ななかったこと。敗戦を受け入れるため、昭和天皇から首相就任を依頼され、78歳で死を覚悟しながら受け入れたこと。
それを知った陸軍の若手将校から命を狙われたこと。陸軍クーデターを回避するため憲法違反と知りながら閣議をせずに御前会議を開き、昭和天皇に判断を仰いだこと。
思わず引き込まれる対話
キーポイントとなる時代背景や本人の覚悟を感じさせる半藤の説明力。その半藤の話を時には感心しながら聞き、時には話の展開の半歩先を質問することで会話を次第に盛り上げる阿川の雑談力。
両者の掛け合いの見事さに、思わず読みふけってしまいました。書店に行くと「雑談力」系の本が並んでいます。その手の本を1、2冊読んだらぜひ、阿川の対談本を読まれることをおススメします。