ローマに生まれた信長・・・『塩野七生「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」』

 

中世フィレンツェ共和国の外交官であったマキャベリは、主人公チェーザレの評価を「君主論」に残しています。その評価は、外国に蹂躙されたロマーニャ地方(イタリアのローマを中心とする地域)に秩序と平和をもたらした人物、としてです。

後世でのチェーザレ・ボルジアの評価も、マキャベリズムを具現化した人物とされています。

チェーザレが持つ「優雅なる冷酷」さを客観的に述べる塩野七生の文体は、まるで映画の残忍な場面での効果音の様に私の中に響く。また、物語の背景としてカトリック教皇庁の世俗化も描かれていました。こうまで堕落すれば宗教改革も起きるでしょう。

一方で、時はルネッサンス期。人間に主眼を置いた絵画や彫刻、音楽が花開き、ミケランジェロラファエロが活躍したローマで、なぜ宗教改革が起きなかったのが不思議でした。

ローマ教皇の妻帯、権力闘争、賄賂、暴力事件を目の前で見ておきながら、ローマ市民は何をしているのかと思いましたが、読み進むうちに、彼らが「搾取する側」だからということに気づきました。